259.生きて帰れると思うなよ(蔵飛)
「やっとその気になったか」
 何もない魔界の丘。妖狐になったオレを見て、飛影は口を歪めて笑った。黒龍を空に放ち、自分の身へと吸収する。
「いい加減、うんざりしたんでな」
 熱に強い魔界植物の種を出し、それを剣の形へと変える。鞭でも構わないが、彼の炎を断ち切るには剣圧の方がいい。
「飛影。……オレを本気にさせたからには、生きて帰れると思うなよ?」
 ざわざわと解放した妖気のせいで髪が逆立っていくのが分かる。どうやらそれは彼も同じらしい。元々逆毛ではあったが、多少の風では揺らがないほどに強く逆立っている。
「貴様に俺が殺せるものか」
「殺せるさ。飛影が、オレを殺すつもりなら」
「……フン」
 オレに向ける彼の剣に炎が宿る。どうやら、手加減をする気はないようだ。
 それもそうだろう。この戦闘は、オレと彼との最初で最後の戦いだ。妖狐と南野の間で衰弱した体。きっともう、妖狐にはなれない。
 人間として死んでいくことを快くは思っていない飛影は、恐らく。妖怪としてのオレを殺すつもりだろう。だが、オレは死ぬ気はない。彼よりも先には。絶対に。
「お前はきっと忘れるだろう。オレが死んだら。オレの存在を」
「ああ。死んだ奴などに興味はない」
「だったらオレはお前よりも先にはしなない。忘れられるくらいなら、お前がオレを覚えているうちに殺してやるよ。そしてオレがお前を死ぬまで覚えておいてやる」
 剣と化した植物に更に妖気を送り、強度を増す。構えをとると、彼が笑った。
「飛影?」
「まさか貴様から殺すなんて言葉を聞くとは思わなかった。強がるな。どうせ先は長くないんだろう?俺が一瞬で楽にしてやる」
「それはこっちの科白だ。オレが消えた寂しさを、いずれ忘れるとはいえ、一瞬でも与えたりはしないさ。安心しろ。オレは飛影よりも先には死なない」
 構えた互いの剣の先から妖気の火花が散り、ちりちりと彼の焼けるような妖気を全身に感じる。それは彼も同じだろう。いつになく低姿勢に構えた彼は、攻撃を僅かでも受ける気はないようだ。
 本当にオレを一瞬で殺すつもりか?
 その言葉を信じられたらどれだけ楽なのだろう。だが、恐らく飛影はオレを殺せない。寸前で刀は鈍るはずだ。オレが死ぬまでの間、彼の歪んだ顔を見続けるのはごめんだ。
「行くぞ、蔵馬」
「ああ」
 じりじりと詰めていた距離が、オレの声で一気に詰められる。横一文字に抜かれた刀を左手に巻きつけた蔓で受けると、オレは渾身の力で右手の刀を――。
(2010/01/03)
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