263.般若の面vsデスマスク(ウラネプ)
「でも、あんなにも顔が変わって。可哀相ね」
 もう動くことのない敵を見下ろし、思わず呟く。

 対峙した時は思わず息を飲むほどに美しかった彼女は、最初の一撃を私たちにかわされると、その形相を変えた。眉を吊り上げ、血走った目を見開き、鋭く尖った牙を剥きだしにして、まるで怒り狂う般若のように私たちに突進してきた。
 戦闘中、もしかしたら私もこんな表情をしているのかしら。だとしたら。顔を覆いたくなる。だって、あんな顔を、ウラヌスに見られるだなんて。
「ネプチューン、伏せろ!」
 聞こえた声に、我に帰る。
 気づくと眼前まで迫っていた敵は、しかしウラヌスの放った二本の閃光を受け、元々立っていた位置よりも後方へと吹き飛ばされた。
「集中を切らすな」
「ごめんなさい」
「僕に謝っても仕方がないだろう?」
 呆れたように言いながらも、手を差し伸べてくれる。その優しさに触れ立ち上がると、倒れている彼女の元へと向かった。
 既に息を引き取っていた彼女の表情は、何かから解放されたようにとても安らかで。私は何故か少しだけ救われた気がした。

「そうかな。何かに必死になる姿は、何よりも強く生を感じる。僕はまだ、あの顔の方がマシだったと思うぜ。今の、彼女の顔より」
 沈んだ声に驚いて視線を上げると、ウラヌスは私に薄く微笑み、拳を掲げた。掌中に光が集まってゆく。
「もう死んでいるのよ?」
「だから、早く土に還すんだ。このまま恥を晒すこともないだろう」
 繋いでいた私の手を振り払い、天界震を放つ。至近距離でのそれは耳を裂くほどの音と、吹き飛ばされそうになるほどの砂埃を生んだけれど、私は必死に目を凝らした。けれど、見えるものなど何もなく。晴れた視界に映ったのは、大きく凹んだ地面だけだった。
「……酷い奴だと、思うかい?」
 私を見るウラヌスの目が暗い色を帯びている。緩いカーブを描いた口は、自嘲のものなのかもしれない。
「分からないわ。けど、私はどんな貴女でも受け入れたい」
 力なく下ろされたウラヌスの手に触れ、包み込むようにして握りしめる。
 例え私は、ウラヌスが鬼のような姿になっても、何も感じない屍になってしまっても、目を背けずにいたいと思う。
「優しいんだな、君は」
「違うわ、ウラヌス。貴女を愛しているだけよ」
 けれどきっと、私が死んだら。ウラヌスは今のように跡形もなく消し去ってしまうのでしょうね。
「ネプチューン?」
「なんでもないわ。それより、余り長居は出来ないんでしょう? 貴女が自分の星に戻るまでのあと僅かな時間、有意義に使わないといけないわ」
 手を離し、微笑みかける。
「……そうだな」
 暫く何かを考えていたようだったけれど、ウラヌスはゆっくりと頷くと、離れてしまった私の手をまるで生の感触を確かめるかのように強く握った。
(2011/10/24)
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