272.店(たな)ざらし(周裕)
「兄貴ぃ。飯出来たってよ」
「ああ。うん。分かった」
「…………」
「裕太?」
「なんだよ、それ」
「何が」
「そのぬいぐるみ」
「ああ、これ。可愛いでしょう」
「……貰ったのか?」
「まさか。こんな色褪せたものをプレゼントする人なんていないよ」
「じゃあ、誰かにやるのか?」
「だから。ここまで色褪せちゃってたら、プレゼント用にはならなよ」
「だったら」
「買ったんだ」
「ゲ」
「なに」
「野郎がぬいぐるみなんか買うなよな」
「いけないなんて法律はないよ」
「そりゃあ、まぁ、そうだけど」
「近所の玩具屋。もうすぐ閉まるだろ?それで今、閉店セールやってるんだけど。店ざらしになってたみたいでさ。殆どタダ同然なのに、誰も買ってくれなくて」
「だからって何も、兄貴が買うことはないだろ?」
「僕が買っちゃいけないってこともないでしょう?」
「そりゃあ、まぁ、そうだけど。でもなんで」
「さぁ。何でだろ。……でも、裕太。このぬいぐるみ、見覚えない?」
「え?……いや。あるような、ない、ような」
「やっぱり覚えてない、か」
「何なんだよ」
「僕達があの玩具屋に行きはじめた時から、ずっといたんだよ」
「うっそだぁ」
「季節のイベント事に、服装を変えてさ。まぁ、特に目立つ存在じゃなかったから、覚えて無くてもしかたないけど」
「でも。それがどうしてこれを買うことにつながんだよ」
「さぁ」
「さぁって」
「ただ、この子は小さい時の僕達をずっと見てたんだなと思ったら。何となく、ね」
「…………」
「裕太、妬いちゃった?」
「は?なんでだよ」
「これからは、この子はずっと僕と一緒だからさ」
「……ばっかじゃねぇの。寧ろ、可哀相だってソイツに同情するぜ」
「僕と裕太がラブラブなのを見せ付けられるから?」
「そうじゃねぇよ。やめろって、兄貴っ。夕飯!」
「ああ。そっか。それで裕太、僕を呼びに来たんだっけ。じゃあ、行こうか。早くしないと、ご飯冷めちゃうし」
「…………」
「裕太?」
「別に」
「大丈夫だよ、そんな心配しなくても」
「何がだよ」
「ちゃんと、後で続きするから」
「ざけんなっ、バカ!」
(2010/03/16)
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