277.呉越同舟(はるみち)
「ったく。キーボードならあっちにだっているだろ?」
「貴女のパートはピアノよ、はるか」
「何が違うんだよ」
「だいぶ違うわ。あちらはピアノの音色は出さないと思うもの」
「あっそ」
「怒っているの?」
「誰に?」
「えっ?」
「怒ってるのとは違うかな。ただ、この先あいつらと行動を共にしないといけないと思うと、少しげんなりしてるだけ」
「でも。この企画をはるかに持ちかけたのは私だわ」
「僕は断ることも出来た。でも、引き受けた。だからそれは君のせいじゃない」
「嫌ならどうして引き受けたの?」
「だって全国ツアーだぜ?君をあいつらと共に遠出させるなんて」
「それなら一緒にステージに立たなくても」
「どうせついてくるなら、一緒にステージに立てって。どうせ君なら言うだろ?」
「ええ。それは、そうだけれど」
「それに……」
「はるか?」
「いや。以前、あいつらとジョイントコンサートをした時に、さ。見てて、なんていうか。その……」
「淋しかった?」
「……音楽なんて、気持ちを一つにしないと出来ないからな」
「じゃあ、はるかもあの人たちと心を通わせてくれるのね?」
「だれがっ」
「私のコンサートを台無しにしたいの?」
「だから、嫌なんだよ」
「なあに?」
「あいつらと共に行動しなきゃならない憂鬱さより、君と一緒にいたい気持ちのほうが強くてさ」
「はるか……」
(2010/04/23)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送