278.躊躇(蔵飛)
「怖いですか」
 蔵馬は言った。別に、と飛影は呟いたが、近づいた唇に思わず触れただけで顔を引いてしまう。
「愛のある行為は、本当に初めてなんですね」
「貴様ほど、人生経験が豊富じゃないんでな」
「オレだって、相思相愛での行為は初めてですよ」
「嘘を吐け」
「事実です。好きだよ、飛影」
 耳元で囁いてその首筋に噛み付けば、飛影の体は緊張にか硬直する。そのことに蔵馬は一瞬躊躇したが、溜息混じりに笑うと、その体をゆっくりと押し倒した。
「大丈夫。何も怖いことなんてないから」
 誰に言い聞かせている言葉なんだろう、と。蔵馬は言いながら内心で苦笑した。だが、指先は躊躇うことなく動いていく。
「飛影。大丈夫。失うものは何もないよ。気付いてなかった探し物が、見つかっただけだから」
 シャツをたくし上げ、筋肉質なその体に舌を這わせていく。
 大丈夫、大丈夫。どちらに宛てているのか分からない思いを伝えるように、蔵馬は優しく、慈しむように飛影を抱いた。
 始終緊張に体を固めていた飛影だったが、最後の瞬間、蔵馬の名前を叫んだことだけが、内心緊張していた蔵馬を唯一安心させた瞬間だった。
(201/01/24)
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