297.鬼より鬼畜(蔵鵺)
 殺さないでくれ、と言われた。
 先に仕掛けてきたのは向こうだ。オレたち二人を相手に、一人で襲い掛かってきた。
 二対一でも挑んできた勇気は認めるが、一人でもオレたちを倒せると思ったその驕りは認められない。
 それに加えて、この命乞いだ。
 もし、オレたちがコイツの思った程度の力しかなかったら、コイツはなんの躊躇いもなくオレを殺したくせに。立場が逆転した途端、命乞いだなんて、見苦しい。
 誰かの命を奪おうとするのなら、その逆があったとしても受け入れて然るべきだろうに。
「お前は、死ね」
 言葉に反応して、既に埋め込んでいたシマネキソウがヤツの体から突き出てくる。白い花はヤツの血を浴びて赤く染まり、それがとても綺麗だったので、オレは一本手折った。鼻を近づけると、シマネキソウの香りと血のにおいが混ざり合って、オレをこの上なく興奮させた。思わず、笑みが零れる。
「何を一人で笑ってるんだ、蔵馬。気持ち悪いぞ」
「どうもオレにとって、シマネキソウの香りと血の匂いを混ぜたものは、興奮剤になるらしい」
 少し、いいか? 頷く黒鵺に花を渡し、冷たくなり始めているヤツに向き直る。指先でシマネキソウに命令を出せば、伸びていた茎はソイツに絡まり、四肢を大の字に広げさせた。
「蔵馬。お前何するつもりだ?」
「……屍姦」
 振り返らず、答える。シマネキソウに血を吸いだされ、紫に変色し始めているその首筋に噛み付くと、近くで咲いていた花が香った。
「反応のないヤツなんか犯して、愉しいか?」
「そこそこな」
 冷たいからだから僅かに流れている血を掬っては、くつろげた自分のそこに塗りつける。充分な硬度を持たせるために赤く染まった手で何度も擦りあげていると、伸びてきた手に動きを止められた。
「黒鵺?」
「俺にしておけ。そいつよりは、まだ愉しめるはずだぜ?」
「何だ。オレを見て盛ったのか?」
「ま、そんなところだ」
 見上げるオレに黒鵺は口元を歪めて笑うと、顔を近づけてきた。カリ、と音を立ててその唇を噛み切ってやる。
「ってぇな」
「シマネキソウ、植えてもいいか?死なない程度に」
 耳の後ろに隠し持っていた種を掴み、傷つけた黒鵺の唇にそれを埋め込む。黒鵺は頷かなかったが、拒否もしなかった。ただ、黙ってオレの目を見つめて、そして、笑った。
「何だ」
 問うオレに、手を伸ばし髪をすくと、黒鵺はゆっくりと呟いた。
 その三文字の言葉に、オレは薄く笑うと、死ね、と優しく囁いた。
(2010/03/21)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送