308.腰砕け(はるみち)
「おはよう、みちる」
 朝陽と共にはるかの声が私に届く。眩しさと恥ずかしさに目を細めながら窓の方を見ると、はるかがはにかんだ。
「君がそんなに朝が弱いとは思わなかったよ。それとも、気だるさが残ってるのかな?」
 キシと音を立ててはるかがベッドに腰を下ろす。伸びてきた手は私の髪を梳き、そのまま頬に触れた。
「はるか」
 昨日の行為がフラッシュバックして、その目を見つめていられなくなる。でも、そらしたいのに、一度捕まったはるかの目からは逃れられそうになかった。
 見つめる目が次第に大きくなり、そして何も見えなくなる。
 触れるだけのキスは、それでも充分に昨日の熱を呼び起こしてくれた。
 毛布をたくし上げ、赤くなった頬を隠す。
「みちる」
 そんな私に微笑いながら名前を呼んだはるかは、隠しきれていない私の耳に唇を寄せ、そして昨日のような甘い言葉を囁いた。
 その言葉にまだぼんやりとしていた頭が一瞬にして冴え渡る。
「目、覚めた?」
「ええ。充分に」
「じゃあ起きようか。朝食、用意してあるから」
 頷く私に立ち上がったはるかは、そういうと手を差し伸べてきた。
 けれど、私はその手をどうしてもとることが出来なかった。理由は……。
「みちる?」
「目を、覚ましてくれたのは有り難いけれど。そんな風に囁かれたら。腰砕けて、起き上がれなくなってしまってよ」
「えっ」
「ねぇ、はるか」
 いまだ私に差し伸べられていたはるかの手をとり、強く引く。よろけたはるかは、それでも私にぶつかることはなく、片腕でその体重を支えていた。
「ねぇ、はるか」
 もう一度その名前を、色を変えて呼ぶ。
「まいったな」
 見つめる私にはるかは苦笑すると、僕のほうが腰砕けしそうだよ、と言って再び私の唇に触れた。
(2010/02/18)
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