318.気づけよ(はるみち)
 気付け。気付けよ。
 退屈なゲームの中、窓際の席に座っている彼女を見つめる。
 音楽の授業。さして集中しなくても、幾人もの声の中から彼女の歌声を探し出すことが出来る。
「天王、そっちいったぞ!」
「ああ」
 飛んできた声とボールに、止むを得ず彼女から視線を外す。
 退屈なゲーム。運動能力の高い生徒達を集めての体育の授業だというのに、なんて手応えがないのだろう。
 ネットを揺らすボール。僕はそれを確信するシュートを放つと、視線をまた校舎へと戻した。彼女はまだ、歌っている。
 僕が校庭にいることは知ってるはずなのに。つれないもんだな。
 ため息をつき、自分のフィールドへと戻る。
 せめて彼女が見ていてくれれば。もう少し、張り切ってゲームが出来るのだけど……。


「はるか。ハットトリックおめでとう」
「え。何で知ってるんだい?」
「勿論、さっきの時間、見ていたからよ」
「……見てた?嘘だろ?」
「嘘じゃないわ。貴女、試合中に私の方ばかり見ていたでしょう?」
「そんな」
「はるかさん。あんなあからさまに見ていたら、いつか先生に注意されてよ?」
「……気を、つけるよ」
(2009/11/16)
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