328.返事がない(不二塚)
「どうなんだ!」
 掴んだ両肩を激しく揺らす。壁に押し付けた状態からだったため、揺れた不二の頭は背後の壁に何度もぶつかった。それでも、不二は真っ直ぐにオレを見つめたまま、表情を動かさない。責めているのはオレなのに、長すぎる沈黙に痺れを切らしたのもオレだった。
「何とか言え」
 手に力を入れ、爪を立てる。それは確実に皮膚に食い込んでいるはずなのに、不二は何の反応も示さない。
 くそっ。
 沈黙が、肯定なのか否定なのか、分からない。
「もう、いい。帰れ」
 感情の見えない目で見られていることに耐え切れず、オレは不二の肩から手を離すと、目をそらして呟いた。すぐ隣で、不二の動く音がする。
「帰ろう?手塚」
 思いがけず、すぐ耳元で聴こえた声。驚いて振り向くと、そこにはいつもの笑みを浮かべた不二がいた。
 どうしてお前はそんな表情をするんだ?
 オレの勘違いだったとしても、さっきまで一方的に責めていたのに。不二は何事も無かったかのように微笑んでいる。
 これは罠なのか?それとも。
 分からなかった。疑惑を抱いてから、ずっと。不二のことが何一つ分からなくなっている。分からなく、なっている、のに。
「……そうだな」
 オレは当然のように頷くと、足元に落ちていたテニスバッグを肩にかけ、不二と並んで夕日に赤く染まった部室を後にした。
(2010/03/19)
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