329.おすそわけ(はるみち)
「はるか。ごめんなさい、待たせてしまって」
「気にするほど待ってないさ」
「でも、1時間も。寒いのに」
「大丈夫。これ、あるから」
「使い捨てカイロ?どうしたの、それ」
「僕のフリークだっていう子が話しかけてきてさ、ここで人を待ってるって言ったら、寒いだろうからって持っていたカイロをくれたんだ」
「そう。それで、私を待っていた時間も気にならなかったのね」
「妬いた?」
「自分の音楽へのこだわりを少し呪うわ。今日のリハーサルは、私の我侭で引き伸ばしたようなものだもの」
「じゃあ、今度のコンサートはきっと大成功だな」
「えっ?」
「だってそうだろ?僕とのデートの時間を削ってでも拘り抜くくらいなんだ。これで大成功しないはずがないじゃないか」
「ごめんなさい」
「嫌味で言ってるわけじゃない。本当に、楽しみだと思ってるんだよ。勿論、今回も僕の席は用意しておいてくれるんだろ?」
「勿論よ」
「よし。じゃあ、行こう。遅れた分を取り返すくらいに濃い時間を過ごさないと」
「…………」
「みちる?」
「カイロ(それ)、捨ててしまうの?」
「ああ。もう僕には必要ないからね」
「でも……。はるかの手、まだ冷たいわ」
「いいんだ。ここからは君の熱を、分けてもらうから」
(2010/03/02)
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