342.師走(蔵飛)
「どうして最近部屋にいない?」
 土足で入ってくるなり、そんなことを言われた。慌てて彼の足元に跪き、靴を脱がす。
「どうしてだ?言え」
「どうしてって。ちゃんといますけど?今日だって、ほら」
「昨日はいなかっただろう?」
 両足が自由になった彼は、刀をベッドへと放ると、自分もそこへ体を投げた。
 いつもなら隅で膝を抱えるのに大の字になっているから。
「……なんだ?」
「こういうこと、望んでたんじゃないんですか?」
 思わずその体に覆いかぶさり近づけた唇は、けれど彼の睨みつけるような目線で不発に終わってしまった。
「飛影。怒ってるんですか?」
「お前が嘘ばかり言うからだ。それならもう少しマシな言い訳を」
「ねぇ、飛影。もしかして、今日と同じ時間に来ました?」
「ああ。いつもいるだろう?」
「いつもはね。けど。年末は仕事が忙しいから帰りが遅いんです。言われてみれば確かに、昨日のうちには帰れてませんでした。帰ってきたのは、日付が変わってからだったし」
 遅い時間にあなたが来てくれたら、オレは迎え入れることが出来たんですけどね。苦笑しながら言うと、飛影は何故かあどけない表情でオレを見ていた。
「飛影?」
「別に」
 問いかけるオレに、飛影は憮然として言うと顔を背けたけれど。その耳は真っ赤に染まっていて。その理由に気付いたオレは声を上げて笑った。
「何がおかしい」
「妬いたんだ。存在(い)もしない誰かに」
「うるさっ……」
「……やっと、キスできた」
「貴様っ」
「淋しかったんだ?」
「誰が」
「じゃあ、オレが」
 淋しかった。耳元で囁いて、その小さな体を抱きしめる。すると、おずおずと彼もオレの背に腕を回してきた。
 拒絶されることはないことは分かっていたけど、こういう反応は予想外だったから。思わず、体を離してしまった。
「蔵馬?」
「いえ」
 どうしたのかと顔を覗き込もうとする彼に、オレは呟くともう一度唇を重ねた。
 オレとしたことがどうしたことだろう。再び背に回された彼の腕に、頬が熱くなってゆくのをどうしても止められなかった。
(2009/12/30)
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