353.緊張の面持ち(アクタカ) |
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「亜久津、緊張しすぎ」 「馬鹿が。それはオメーだろうが」 それは、確かにそうなんだけど。亜久津の手だって、震えてるんだよ? そう思ったけど、おれは何も言わなかった。呆れるほどの永い時間をかけて折角ここまで持ち込んだのに、おれの不用意な一言で振り出しに戻るようなことがあったら、多分、もう限界だと思うし。 亜久津の部屋。今夜は優紀ちゃんは帰ってこない。明日は部活も学校も無い。おれはここに泊まることになってる。 こんな条件は過去に何回かあったけど、それはお互いに気持ちを確認する前だったし、そもそも小学生の時だったから。こういう状況になったことは欠片も無くて。 お互いの気持ちが分かってからはこんな条件にはならなかったから、だから、今日は。本当に、待ちに待っていた日なんだ。 「だから。そんな緊張したツラするんじゃねぇよ」 「えっ」 「いいから。目、潰れよ」 「うん」 ぶっきらぼうな言い方の中にもおれだけに優しい声が混ざってることが分かるから。おれは素直に頷くと、静かに目を瞑った。 おれの肩を掴んでる手に力がこもり、そのことで、亜久津の手の震えが止まる。 なんて。そんなことに気を取られているうちに、唇に柔らかいものが触れた。 それは一瞬だけで離れてしまって。だからもういいのかなって目を開けたら、すぐそこに亜久津の顔があって、また唇に触れてきた。 亜久津のほうが、やっぱり緊張してるよ。 肩を掴んでる亜久津の手にはいまだに力が入ってて。待ち焦がれた感触にいつの間にか体の緊張が解けていたおれは、ぎゅっと目を瞑っている亜久津の顔を見つめながら思った。 |
(2010/02/20) |
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