356.確信犯(はるみち)
 人の痛みなんて理解できなくていい。
 夜の海に揺れる月を眺めながら、はるかはそんなことを思った。
 どうして自分は確信犯になりきれないのだろうか。自分のしていることが正しいと信じきれないのだろうかと。進むべき道は、他に無いというのに。
「はるか」
 不意にみちるが指を絡めてきて、はるかは視線を移した。月明かりでもその表情が充分すぎるほど分かる距離で、みちるが見つめている。
「私は、貴女を信じているわ」
 不安げな目で、それでも笑顔を作ると、みちるは言った。
「みちる」
 はるかは、搾り出すようにその名を呼ぶと、冷え始めていたみちるの体を抱きしめた。その髪に顔を埋め、痛みをかき消すようにそのにおいを吸い込む。
 ずるいな、みちるは。何の躊躇いもなく、僕を信じてしまうなんて。
 伝わってくる温もりに、はるかは思いながら。何とか決意を固めようと、更に強くみちるを抱きしめた。
(2010/04/26)
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