370.鳩時計(不二榊)
「はい」
「何だ、これは」
「鳩時計です」
「それは見れば分かるが。しかし」
「榊さんに。僕からのプレゼントですよ」
「……今日は何の日だったかな」
「忘れちゃったんですか?」
「……嘘を、吐いているな?」
「分かります?昨日、物置を漁ってたら見つけたので。直してみたんです」
「それがどうして私の手元に来るんだ?」
「プレゼントしようと思いまして」
「その理由を聞いているのだが」
「面白いかな、と」
「……面白い?」
「榊さんのシックな部屋に、唐突に平和な鳩の鳴き声が……。ねぇ。想像したら、とても面白いと思いませんか?」
「……随分と、間の抜けた画だと思うが」
「丈の短いエプロンをした榊さんよりはマシだと思いますけど?」
「あれは君が。……君の丈で作ったからだろう?」
「しょうがないじゃないですか。授業では自分で着るために作ることになっていたんですから」
「それなら自分で使えばいいだろう」
「うちには弟から貰ったエプロンがありますからね」
「それなら、調理実習専用にするとか」
「不満ですか?」
「君が持ち出した話だろう?」
「ああ、そうでしたね。忘れてました」
「嘘はよくないな」
「見抜いているのなら、いいじゃないですか。騙せない嘘は嘘にはなりませんよ」
「……詭弁だな」
「そうですか?」
「嘘だと分かっていて騙されることもある」
「でも、あなたはそれをしない」
「どうだか」
「榊さ――」

 ぽっぽー

「…………」
「…………」
「やっぱり、間抜けですね」
「そうだな」
「やっぱり持ち帰ります」
「いや、いい。折角の君の厚意だ。有り難くもらっておく。いつかまた、助けられるかも知れないしな」
「……それも、そうですね」
(2010/03/07)
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