374.アプリオリ(蔵飛)
「君が、邪眼を身につけなかったら。今頃どれくらいの強さを手に入れてたのかな?」
 額の髪をかきあげそこに唇を落とすと、蔵馬は言った。さぁな、と呟く俺に、何故か溜息をつく。
「でも邪眼をつけなければ人間界にもこなくて。幽助にも出会うことがなかったんだから、あまり強くはならなかったのかもしれないね。本来持っている強さだけでも魔界なら充分に通用する」
 それに、君は自ら仲間を作るとも思えないし。自分の回答に満足がいったのか、蔵馬は微笑うとオレを倒した。
「不思議だな。会った時から君がそれを身につけていたから。オレにはそれが君を表すものの一つになってるよ。……本当は、別の誰かなのに」
 そう言って、また額に唇を落とす。
 別の誰か。考えたこともなかった。確かに、これは俺のものじゃない。作り物でもない。誰かの目を移植したものだ。だが。
「今は俺のものだ」
「オレが?」
「何の話をしている」
「冗談だよ」
 睨みつけた俺に、蔵馬は楽しげに笑った。それからまた、額に唇を落とそうとするから、俺は手でそれを隠した。
「……飛影?」
「貴様はこれを別の誰かだと思っているのだろう?」
「なるほど。自分の体に妬いたわけだ」
 ふざけるな。思わず言い返しそうになったが、俺はそれをなんとか堪えた。そうなってしまえば、蔵馬は余計笑うに決まっている。
 だからかわりに、そうだ、と答えた。
 すると案の定、蔵馬は少し驚いた顔をして。その後、ゆっくりと目を細めると、ようやく俺の唇に辿り着いた。
(2010/05/21)
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