401.期待の星(はるみち)
 最後の大会。欠伸が出るほど退屈な予選を終えた僕は、スタンドへ続く階段でその姿を見つけた。
「来てたんだ。ああ、そうか。エルザって子も出てたんだっけな」
 言いながら、彼女の前に立つ。けれど、彼女は僕を見ようとはしなかった。間違いなく、僕を待っていたはずなのに。
「みちる?」
「日本女子陸上界、期待の星」
「えっ?」
「……ごめんなさい」
 俯いたまま、更に頭を下げるから。見えたつむじを思わず指で押してしまった。
「っ」
「どっちにしたって、僕は陸上を夢にはしなかったさ」
 頭を抑えながらようやく顔を上げた彼女に、僕は微笑いながら言った。
 そう、戦士という道を、この世界の平和を守るという夢を選らばなかったとしても。僕は、陸上を続けはしなかっただろう。
 だからこれは、彼女が気にすることじゃない。
「でも」
「この使命を果たしたら、僕はレーサーになる。陸上の方面で期待してる奴等には悪いと思うけど。レースの方が、楽しいんだ」
 陸上ならきっと、大して努力をしなくとも今の僕ならそこそこの成績は残せるだろう。だけど、保証がなかったとしても、いや、保証がないからこそ。僕はモータースポーツに賭けてみたいと思う。
 安全なんて、退屈なだけだ。適度なスリルの方が楽しいし、きっと僕に合ってる。
 でも。ああ、そうだ。
「そういえば、レース以外でも楽しいことがあったな」
 思い出して、ひとり微笑う。そんな僕を見て、彼女は不思議そうに首をかしげた。その姿が可愛くて、僕は目を細めると彼女の手を取った。
「はるか?」
「以外、というより、以上、かもしれないな。なぁ、みちる。使命が終わったらさ、それでも君と一緒に居続けることを、僕の夢にしてもいいかな?」
(2010/04/08)
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