408.片道切符(外部ファミリー)
「君の、持っている切符を、僕に破らせてくれないか?」
 ふいにはるかが言った。
 何の事か分からずに見つめ返すと、はるかは何故かつらそうな笑顔を作った。私から目をそらし、庭先で遊んでいるみちるとほたるに小さく手を振る。
「だいぶ、家族として馴染んできたよな」
「ええ。そうですね。時には使命を忘れてしまうくらいに」
 あくまでこれは仮の家族。どんなに愛おしくても、いずれほたるは血の繋がった父親である土萌氏に返さなければならない。そして、私も。
「忘れてもいいんじゃないかな」
「え?」
「ギャラクシアは倒した。今は平和なんだ。また敵が現れるその時まで、使命は置いておかないか? ……それと、君の切符も」
 またはるかの口から出てきた、切符という言葉。相変わらずその意味を理解することが出来ないでいると、はるかは小さく溜息を漏らした。冷めてしまった2人分のコーヒーを手に、キッチンカウンタへ回り込む。
「君は、また時空の扉(あそこ)に戻るつもりでいるんだろ?」
「ええ。そういう条件で、私は再生しましたから」
「帰らなければ、死ぬのか?」
 遠くても分かるはるかの目の強さに、私はようやく切符の意味を理解した。そうですね、と答える私に、はるかは眉間に少しだけ皺を寄せた。
「あそこでは時間は無に等しい。ですが、ここは違います。ここにいれば、私は人間と同じように年をとり、そしていずれ死ぬでしょう」
「……それって」
「私があそこへ戻らないからと言って、プリンセスが命を奪うとでも思ったのですか?」
「ったく。人が悪いな、せつなも」
 溜息をついたはるかは、それでも笑みを浮かべていた。
「誰かさんが回りくどい言い方をするからです」
 私も微笑んで返す。
「じゃあ、ストレートに言おうか?」
「もう、分かりましたから」
 手を掲げて言葉を制すと、はるかは何が詰まらないのか小さく舌打ちをした。淹れなおしたコーヒーを持って、私の隣に再び並ぶ。
「それで? 君の返事は?」
「まるでプロポーズのようですね。みちるに誤解されますよ?」
 渡されたコーヒーに口をつけ、窓の外を眺める。みちるは相変わらず、ほたると楽しそうに笑っている。
「別に、プロポーズと思ってもらっても構わないさ。僕はほたるのパパで、君はほたるのママなんだ。みちると同じくね」
「一夫多妻制ですか?」
「ほたるからすれば、ね」
「あなたからすれば?」
「どうだろ。妻って感じはしないけど。でも、君が家族であるということは感じてるよ。僕たちは、今、4人で一つの家族なんだ」
 言い切って、はるかもコーヒーをすする。その口元は幸せそうに上がっていて、見ている私もつられるように微笑んだ。
「そうですね。はるかが女三人を養えるというのなら、考えてみます」
「おいおい。……まぁ、それでもいいか。じゃあ、優しいパパはとりあえず、娘の相手でもしてこようかな。君たちはそろそろ、夕飯の支度だろ?」
 コーヒーを一気に飲み干しテーブルにカップを置くと、はるかは窓を開けて外の二人に声をかけた。
 楽しげに会話を始める、私の家族たち。その光景をただ見ているだけでも、贅沢な倖せなのだとずっと思っていた。けれど、今は。
「せつなママもこっちおいでよー!」
「はい。今行きます」
 もう、眺めているだけでは、きっと……。
(2010/04/21)
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