422.死に物狂い(不二塚) |
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「そんなになってまで、勝ちたい試合だったのか?」 「……火がつくのが、少しばかり遅かったみたいだけどね」 頭にタオルをかけたまま、僕は殆ど自分の膝に向かって答えた。 ややあってベンチが軋む音がし、彼が隣に座ったのだと知る。 「……見っともないよね。あんな風になって。それでも、負けちゃうなんて」 「オレの知らない、お前の姿だったな」 「かっこわるい?」 「嫌いじゃない」 「それって、好きってこと?」 「さぁな」 素っ気無い返事。顔を、見ていないから分からないけれど。もしかしたら照れているのかもしれないと思った。いや、照れていて欲しいという僕の願望だ。 「……不二」 桃たちの試合が始まったのだろう。再び賑やかになった応援席。その声に隠れるようにして、彼が僕を呼んだ。 なに、と答える前にタオルの片側を暖簾をくぐるようにして彼の顔が覗いた。それはゆっくりと近づき、僕の唇へと……。 「手塚?」 「頑張った褒美だ。物事に執着できないお前でも、オレになら、執着できるんだろう?」 驚く僕に、彼は赤い顔で、しかし勝ち誇ったような笑みを浮かべて言うと姿勢を戻した。追いかけようとした僕の視界を、彼の手から離れたタオルが塞ぐ。 「いつまでも凹んでいるな。らしくない。……オレは桃城たちの応援に戻っているぞ」 タオル越しに僕の頭を軽く小突いた手塚は優しい声でそう言うと、立ち上がった。 慌ててタオルを肩まで下ろし、彼を見上げる。同時に、それは殆ど無意識ではあったけど、僕は彼の手を強く握っていた。 「どうした?」 「もう、大丈夫。次への目標も出来たから。僕も桃たちの応援に行くよ」 彼の手を口元に運びそこに唇を落とすと、僕も立ち上がった。不快に思われることを覚悟で、汗ばむ手を、しっかりと繋ぐ。 「……単純な奴だな」 僕たちの手と、僕の表情を交互に見た彼は、大袈裟に溜息をつきながら言った。ただ、その口元は何処となく嬉しそうで。 「君の魔法に、かかりやすいだけだよ」 指を絡めるようにしてその手を繋ぎなおすと、僕は赤みを残している耳にそっと囁いた。 |
(2010/06/05) |
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