427.冬奉行(不二塚)
 寒い寒いと言いながら纏わりついてくる。腕を絡め、猫のように頬を摺り寄せて。オレを見上げては、はぁ、と勢いよく息を吐く。
「何をしているんだ?」
「息、白くならないかなって」
「勢いは関係ないだろう」
 困った奴だ。溜息が思わず零れる。しかしそれは色づくことはなく、オレの口元を見ていた不二はつまらなそうに口を尖らせた。
「そんな顔をするな。もう少し寒くなれば鼻息だって白くなる」
「これ以上寒くなるの?」
「当たり前だろう。冬将軍だってまだ来ていないのに」
「嘘。じゃあこの風は?」
 この、といった瞬間呼ばれたかのように突風が吹き、不二は更に身を縮ませてオレにしがみついた。掴まれてる腕に、制服ごしでも痛みを感じる。
「せいぜい奉行程度だろう」
「なに、それ」
「……そんなに寒いならコートを着てくればいいだろう?」
「そんなことしたら、手塚の体温感じられなくなるじゃない」
「手でも繋いでいればいいだろう」
 言ってしまってから、失言に気付く。不二もその言葉の意味に気付いたのだろう。オレの腕を掴んでいる手が緩んだ。遅れて、オレを見つめているその顔も。
「今の話じゃない」
 腕を掴んでいた手を下げてくる不二に、その手を振り解くとオレは言った。また不二が口を尖らせる。
「じゃあ明日からコート着てこようかな」
「この程度の気温でコートなんか着ていたら、冬乗り切れないぞ」
「大丈夫だよ。手塚に手伝ってもらうから」
 どう手伝えというんだ。訊く前に、不二は再び腕に絡みつくと、はぁ、と色のつかない息を吐いた。
(2010/11/10)
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