430.媚びへつらう(不二榊)
「こんな事をしても、ジュニア選抜には何の影響もないぞ?」
「別に僕は、ジュニア選抜自体には何の興味もありませんから」
 吐き出した精液を飲み下すと、彼は笑った。自分の口元を伝っているものを指で掬い取り、それも味わう。
 不思議な少年だ。ジュニア選抜のための合宿で、私の管理下に置かれたのは何の巡り会わせなのだろうか。
 ゆっくりと私の身体を倒し、その上に覆いかぶさる。こんな少年がどれだけの経験を持っているというのか、服を脱がせていく手つきは慣れていて、私はそれをまだ冷え切らない頭でぼんやりと眺めていた。
「榊、さん。と。呼んでもいいですか?」
「あくまでプライベートというわけか。いいだろう」
 普通は媚びへつらうものではないのだろうか。それとも、そうだな、これが現代の子供達の感覚なのかもしれない。私の可愛い生徒達も、決して顧問に媚を売ったりはしない。実力主義を徹底しているせいもあるが。
 それでも、彼の感覚は現代の子供達の普通とはずれているだろう。
 抱きたいと思うだろうか? 四十を過ぎた大人を。それも、男を。
「やっぱり。着やせするタイプなんですね」
 シャツを広げ、私の身体をじっくりと眺める。カタチを確認するように動く指先に、思わず熱い吐息が漏れた。
 彼の感覚がずれているのなら、私の感覚もずれているのだろうな。
 彼の顎を掴み、口付けを交わす。僅かに残る自分の味にも構わず深く舌を絡めると、彼の匂いのようなものが私を包んだ。
「随分と、慣れているようだが」
「気になりますか?」
「君の、テニスにかける熱意ほどにはな」
「……それじゃあ随分と、冷たいんですね」
「なるほど」
 全く。本当に不思議な少年だ。いや、不思議な男だと言い換えた方がいいのかもしれない。
 首筋に噛み付いてくる彼の髪を撫でながら、私はその魅力のようなものに近いうちに溺れていくような予感がした。
(2010/05/26)
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