452.知ったかぶり(はるみち)
「ウラヌス。怪我は?」
「ああ。かすり傷だけだ。問題ない」
「そう……」
 なんでもない風を装って頷いてはみたけれど、余裕の笑みでかすり傷を見せた彼女に、私は心配で仕方がなかった。
 変身をしている間は、星の力が私たちを守ってくれている。だから、かすり傷程度で済む。でも。もし、変身できないような状況で戦闘を強いられでもしたら。
「ねぇ、はるか」
 変身を解き、呼びかける。私を振り返る瞬間見えた表情が笑顔ではなかった気がしたのは、きっと見間違いなんかじゃない。
「どうしたんだよ、みちる。変な顔して」
 恐らく痛むのだろう右手をポケットにしまい、いつもと同じ優しさで左手を差し伸べてくる。その指先をすり抜け、はるかの右腕を掴んだ。
「みちる?」
「まだ、戦い方をすべて思い出したわけじゃないんでしょう? それなのに。知ったフリをして無茶をしないで」
 人には、腕を怪我したらヴァイオリンを弾けなくなるだろうと叱るくせに。はるかだって、手首を怪我したら、ハンドル操作に支障をきたすのに。
「無茶なんか。……しないと、駄目なんだ。僕は」
「どうして」
「……ウラヌスが、そうしてたからさ」
 嘘。私の知ってるウラヌスは、確かに少し無茶をしていたかもしれないけれど、決して無謀ではなかった。今のはるかは、無謀としか言えない。だってまだ、貴女は何も知らない。ウラヌスがどうしてたかなんてことも、きっと。
「バカ」
 貴女が私を守るために傷ついたら。私は本当に傷つくのに。
「悪かったよ。次からは、気をつける。相手に技すら出させないさ」
 ほら、やっぱり。何も知らないじゃない。
 見つめる私に目を細めると、はるかは再び左手を差し伸べてきた。
 本当に。バカね。
 声にはせず、内心で呟くと、私はそのまま、はるかの右腕に自分の腕を絡めた。
(2010/12/06)
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