453.第一印象(蔵雪)
 初めて蔵馬さんの本当の姿を見たとき、少しだけ、怖いと思った。でも、それ以上に、懐かしかった。
 それは、蔵馬さんの妖気が氷のように冷たかったからとか、その姿が雪のように見えたからとか。実際の所は理由はよく分からないけれど。懐かしい、と思った。
「雪菜?」
 膝に乗せた私を呼ぶ、蔵馬さんの声。声色は姿と同じものだけれど、その中にある優しさは人間の時のもの。そのことを少しだけ残念に思う私は、きっとどうかしているのかもしれない。
「好きです、蔵馬さん」
 白装束をぎゅっと握り、その胸に顔を埋める。吸い込むにおいには人間のものなんてどこにもなくて。妖怪と獣が混ざったものと、ほんの少し、草花のにおいがした。
 ひんやりと冷たい体温。私を包む腕はたくましく、もっと強く抱きしめて欲しいと思ってしまう。
「余り、私に優しくしないで下さい」
「……面白いことを言う」
「私は氷河の国の女ですから。冷たい想いの方が、心地良いんです」
 ずっと触れていると、蔵馬さんの体が温かくなっていく。人間の蔵馬さんが持っている優しさみたいに。私は、それが。それが、少しだけ嫌で、身じろいだ。
「激しさを増すと、熱が出るが……。それも嫌いか?」
 私の肩を掴み、体から引き剥がすようにして地面に押し付ける。私が答えを言おうと口を開くと、蔵馬さんの口がそれを塞いだ。熱いものが、私の口内を掻き回す。
「融けて、しまいそうです」
「嫌いか?」
「……好きです」
 微笑んで返す私に、蔵馬さんは口元をつりあげて笑った。その目にはもう冷たさは何処にもなくて、でも、優しさも見つからなかった。
 それは、蔵馬さんのことをよく知るようになってから出会った、目。激しさを湛えた、獣のような。
 私の求める冷たさはそこにはないけれど、私の求める熱は確かにある。
「好き」
 その目を真っ直ぐに見つめ呟くと、何も言わず黙って見つめ返す蔵馬さんに、私は手を伸ばした。
(2010/06/07)
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