455.夢物語(はるみち)
「犠牲者を出さず、世界を救うだと?」
「そんなの、ただの夢物語だ」
「……はるか」
「誰も、死なせない。僕だって、出来ることならそうしたいさ。けど、無理なんだ。だから」
「分かってるわ。私は、分かってるから」
「それに。犠牲者なら、もう」
「えっ?」
「君の、夢」
「死ななければ、それで犠牲がなくなったというわけじゃない。君の夢はどうなった? 使命のために、犠牲にしたんだろ?」
「はるか」
「今更。どうして君だけが……。君が音楽に触れることは、呼吸をするのと同じことなはずだろ?」
「違うわ、はるか。そうじゃない。私は、夢を犠牲にしたわけではないわ」
「違わない」
「違うの。確かに、戦士になったときは夢を犠牲にしたわ。でも今は犠牲じゃないの。違うのよ」
「……どう、いう意味だ?」
「変わったの。夢が。私の夢は、貴女の隣にいること。そのために戦うのであれば、それは夢を叶えるための戦い。犠牲ではないわ」
「君は……。僕は、そんな。秤にかけるほどの」
「それを決めるのははるかじゃない。私よ。……それに。夢を犠牲にしたというのなら、はるかだって同じでしょう?」
「僕は、違う。レーサーになることを、夢だと。思い込んでいただけだ。陸上に興味が持てなくなったから。ただそれだけ。君のようにそれを愛しているわけじゃない」
「僕が愛しているのは……」
「黙って」
「みちる?」
「駄目。それ以上は」
「どうして」
「月が、見ているわ」
「……僕は。戦士失格だな」
「どうして?」
「自分の夢を叶えるために。誰かを殺そうとしている。きっと夢なんて無ければ。……あの子のように、僕だって誰も殺さず世界を救う方法を探したかもしれない」
「夢?」
「……君と同じ。いいや、同じじゃないな。僕は、君と共に戦いたいわけじゃない」
「はるか?」
「君と共に、日常を送りたいんだ。僕の夢は、この戦いの先にある。だから。何をしてでも、僕は。――この世界を、守ってみせる」
(2012/02/19)
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