489.桃源郷温泉・湯煙殺人事件(はるみち)
「……温泉ね。ま、みちるが行きたいっていうなら行ってもいいけど」
「なあに。それじゃあはるかは余り気乗りがしないみたいじゃない」
「そりゃあそうだよ」
「どうして?」
「みちるの裸は僕だけのものだからさ」
「……残念だけど、私の裸を見たことがあるのははるかだけじゃなくってよ」
「え。他に誰がいるって……。まさか」
「両親よ。それと乳母。他にも」
「分かった。そうだな。なんだよ。僕はてっきり」
「誰を思い浮かべたのかしら?」
「ま、まぁ、みちるが良いっていうなら、行こうか。どっちにしても、あの子たちの中にほたるだけ放り込むわけには行かないし」
「…………」
「みちる?」
「逆も考えられるのよね」
「何?」
「はるかの裸。あの子たちに見られることになるわ」
「……時間をずらせばいいだろ。どうせ部屋は別になるんだろうし」
「そうね。……ねぇ。殺人事件とか、起きたりしないかしら?」
「はぁ?」
「ほら、よくテレビドラマでやってるじゃない。それで、崖の上で犯人を追い詰めるの」
「……テレビドラマ、ね。そういえば最近よくテレビ観てるな」
「ほたるやせつなの影響かしら。電源が入っているとつい観てしまうのね、あれって」
「ふぅん」
「ダメ?」
「いや。いいんじゃないか。けど」
「分かっているわ。あれはフィクション。でも、私達は普通の人たちから観たら、フィクションに似た人生を送っていると思うの」
「だから殺人事件が起こるかもしれないって?」
「ダメ?」
「駄目だとかそういう問題じゃ……。第一、誰が殺されるんだ? 僕はそんな役、ゴメンだぜ」
「私と貴女は探偵役だもの。危険な目に遭いこそすれ、殺されはしないわ」
「危険な目、ね」
「なぁに、その目は」
「君を危険な目に遭わせる奴なんてそうはいないだろうなと思ってさ」
「なによ」
「拗ねるなよ。続けて?」
「だから、向こうで偶然彼らに会うのよ」
「彼らって、まさか……」
「そう、星」
「分かった。分かったから。言わなくていい。で、どうせそいつらの誰かが殺されるっていうんだろ?」
「彼らは犯人だと疑われる役よ」
「いや。死ぬのはアイツだ。だけど、それは殺人じゃない」
「どういうこと?」
「隣の女湯を覗こうと柵をよじ登ったはいいが、足を滑らせて頭を打って死ぬのさ。生憎その時男湯には他に誰もいなくて、第一発見者がアイツの連れなんだけど、そんな死因じゃ恥ずかしいからって、殺人に見えるように工作する」
「それじゃあ余りにも可哀相よ」
「そうか? アイツなら実際にやりそうだけどな」
「誰を覗くために? うさぎ? それとも……」
「僕が知るわけないだろ。アイツ、女なら見境ないぜ?」
「じゃあはるかの裸かもしれないわけね」
「……みちる、怒ってる?」
「怒ってないわ」
「怒ってるだろ」
「じゃあ、怒ってる」
「え?」
「怒っているわ。ねぇ、それで? 私が怒ってると知った貴女は、どうするつもりなのかしら?」
「……はぁ。そうだな。とりあえず、下見のために、今から二人きりでその温泉にでも行くことにしようかな」
「今から?」
「そう。今から。嫌だって言っても、無理矢理にでも連れてくぜ?」
(2010/11/08)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送