494.断片的(みちる)
「――っ」
 声にならない叫びを上げ、目を覚ます。
 口の中がからからに乾いている。それに対し体には尋常ではない汗が纏わりついて気持ちが悪い。
 また、あの夢……。
 同じ場面ではない。続きでもない。けれど、毎夜のように見ている夢は、明らかに同じ世界、同じ時代のもの。
 誰かの記憶を断片的に覗いているような感覚。映画を観るのとは違う、自分がまるでその誰かになったような……。
 深呼吸をし、鼓動を落ち着かせる。目を瞑ってさっきまで見ていた夢を思い出そうとしてみたけれど、最早それは靄がかかっていて上手く手繰ることは出来なかった。
 目を開け、諦めの溜息をつく。
 そのとき。
 ――ネプチューン。
 誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
 私を? 違うわ。それは私の名前じゃない。私は。
「……私は、誰?」
 思い出せない。自分の名前が。こんなことがあってもいいのだろうか?
 きっと疲れているんだわ。そうじゃなければ、寝惚けているのね。
 疲れる原因もなければ、寝惚けるなんてことも滅多にないのに、私は自分にそう言い聞かせた。
 汗が冷えて、寒気を感じる。
 それでも、これ以上起きていることが怖くて、着替えもせずに私は再びベッドに横になった。
 目覚めれば、きっと日常が自分を待っていることを信じて……。
(2010/05/12)
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