496.取り扱い説明書(はるみち)
「みちる? まだ起きてるのか?」
「……はるか」
「明日早いんだろ。もう寝ないと。日付、変わるぜ?」
「ええ。今、これを書き終わったら」
「なんだ、これ。……取り扱い、説明書?」
「そう。『天王はるかの取扱説明書』よ」
「えーっと。それは、どういう意味、なの、かな?」
「だって四人で暮らすようになってから海外公演なんて初めてだから。二人の時は一緒に行ったけれど」
「そうだな。君と、二週間も離れるだなんて。なんかちょっと、考えられないな」
「だからよ」
「いや。だから、の意味が。よく分からないんだけど」
「そう? 充分な理由だと思うけど」
「どれどれ……。えーっと。『コーヒーは基本お砂糖三杯。但し、はるかが甘えたい気分の時はブラックで。』へぇ」
「でしょう?」
「それ、せつなに渡すのか?」
「そうよ。そのために文字におこしてるんだもの」
「……なんか、嫌だな」
「そう?」
「こういう、のは。君だけに理解してて欲しいんだけど」
「でも。じゃあ、私がいない間、貴女の世話はどうするの?」
「世話って、あのな。自分のことくらい、自分で出来るさ。大体、自分のこと、何も出来なかったのは君のほうだろ?」
「それは……。そうだったかもしれないわ。だけど。でも」
「それに。そんな風にして、君以外から、君みたいなこと。されたくない」
「はるか……」
「だいたい、君が居なくて淋しい時に、君に似たことを誰かにされたら」
「その誰かと間違いを起こしてしまうかもしれない?」
「……例えばの話だろ。怒るなよ」
「例え話をするということは、それを予測できないわけじゃないということでしょう?」
「だったら。そんなもの捨てて、さ。ほら、早く寝ろよ。明日起きられなくても、知らないぜ?」
「大丈夫よ。貴女と違って、私は寝起きがいいから。ああ、そうだわ。せつなに、貴女の寝起きの悪さだけは言っておかないと」
「ちょっと待った」
「はるか?」
「君は、君以外の誰かに、僕を起こさせたいのかな?」
「でも」
「なぁ、みちる。僕が学校に遅刻して行ったこと、あったか?」
「……ないわ」
「だろ?」
「でも」
「おかしいな。みちるの調べは完璧だと思ってたんだけど」
「えっ。だって、まさか」
「君が、寝つきが悪いのと同じだよ」
「……知っていたの?」
「いいや。当てずっぽう。でも、そうか。甘えたくてわざとしてたのか。それで? 今日も君は寝つきが悪くなるのかな?」
「……ばか」
(2010/06/10)
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