497.錯覚(外部ファミリー)
「ほたる。ほたる、大丈夫か?」
 はるかに体を揺すられ、目を覚ましたほたるはその姿を認めると、いやっ、とはるかを突き飛ばした。
 毛布を目元まで引き上げ、何かを怖れるかのように視界の半分を隠す。
「ほたる……」
 大丈夫だ。そう言って、はるかは毛布を掴むほたるの手に触れようとしたが、直前でそれを止めた。
「何か、あたたかい飲み物でも持ってくるよ」
 ほたるに触れることなく指先を折り曲げる。けれどその手がポケットの中へと入ることは、伸びてきた小さな手によって阻まれた。
「……ほたる?」
「ごめん、なさい」
 まだ少し青ざめた顔で、それでもほたるははるかと目を合わせると微笑んだ。その表情は見た目の年齢にはつりあわない大人びたもので、はるかは微笑み返さなければいけないはずなのに、どうしてもそれが出来なかった。
 ほたるの手が、少しだけ強さを増す。
「錯覚だって、分かってるの。はるか…パパは、悪い人じゃないって。あの時、悪かったのはほたるの方だから。分かってるの。でも」
「……あの時の僕たちは、ほたるから、ミストレス9から見れば敵だった。ミストレス9の正義からすれば、僕たちのほうが悪だったんだ」
 仕方がない。そう割り切るべきではないとはるかはいつも自分に言い聞かせていた。そんな風に割り切って許されるべき行為ではないと。だがそれはあくまで自分に言い聞かせるべき考えであって、ほたるには同じ考えを持たせたくないと思った。
「覚醒して、記憶が混乱するのは仕方がないさ」
 まだ自我が成長しきっていない段階での覚醒。それがほたるの人格に与える影響は、はるかやみちるの比ではないだろう。現世に転生したせつなが、プルートと殆ど変わらない存在であるように。
「ねぇ、はるか、パパ。はるかパパは、本当はほたるのこと」
 下がっていた毛布を片手で目元まで引き上げ、その中で声でほたるは言った。くぐもる声。その先の言葉を躊躇っていると、はるかが溜息のような笑みを零した。自分の腕を掴んだままのほたるの手を、優しく解き、繋ぎ直す。
「愛してる」
「……じゃあ、今夜はずっと一緒にいてくれる?」
「ほたるがそうして欲しいって言うなら。ずっとこうしてるさ」
 明日、みちるとせつなには怒られそうだけどな。呟いて、ほたるの小さな手を両手で包みこんでは、微笑った。そんなはるかに安心したように微笑んだほたるには、いつものあどけなさが戻っていた。
(2010/5/24)
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