499.地図の切れ端(蔵飛) |
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手の中で潰された紙切れ。幾ら広げてしわを伸ばしてみても、そこには目的地しか載っていない。その他の部分は、必要ないと破り捨てた。いや、本当ならこの切れ端も捨ててしまうはずだった。 風にのせて消えていったはずのそれが俺のマフラーの中に入り込んでいたのは、何のいたずらだったのだろうか。 見慣れない、奴の文字。 机に向かって何かを書いている姿はよく目にしていたが、実際にその文字を見たことは数えるほどしかなかった。 何度も見ていると、これが本当に奴の文字なのかどうか、怪しく思えてくる。だが、俺の掌の中にあるということが、これが奴の文字であるという何よりの証拠。 しかし。これだけでは奴に会いに行くことは出来ない。人間界に行ったとしても、その妖気を探ることも、今では不可能だ。 地図を手渡された時は、まさかこんなにも早くその時が訪れるとは思わなかったから、一度この目で確認しようという気もなかったが。 だが、会いに行ってどうする? 魔界と人間界とを繋ぐ穴の前でもう幾日も立ち止まったままの自分に、問いかける。 会いに行ったところで、奴は居ない。その骨にだって、触れることはおろか、見ることさえ出来ない。 会いに行くのなら、人間界ではなく、霊界だろう。 それなら、何故、奴は俺に墓の地図など描いて渡した? ――オレが死んだら。いつでもいい。一度だけオレの墓に会いに来て。それで、何でもいいから、好きな花を供えて欲しいんだ。そうしたら、もう、君は自由にしていいから。 好きな花。そんなものが俺にあるとでも本気で思っていたのだろうか。だとしたら、なんて馬鹿な奴だ。 俺が好きなものは唯一つ、お前だけだったのに……。 「……馬鹿な奴だ」 掌を開き、切れ端を魔界の生温い風に吹かせる。吸い込まれるようにして人間界へ通じる穴の中へと飛んでいくそれを、邪眼でも確認できなくなるまで、俺はずっと眺めていた。 |
(2010/06/26) |
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