507.ファーストコンタクト(蔵飛&黄泉) |
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「お前が飛影、か」 視界を遮るように出てきた男は俺の髪に触れるか触れないかの位置に手を伸ばすと、実物はより幼いな、と呟いた。無礼なヤツだ。 「誰だか知らんが、人を見かけで判断すると痛い目を見るぜ」 「時には見た目の持つイメージも必要だ。そもそも、目に見える情報すら活用できない者が、見えない情報を活用できるとは思えないが」 「……何だと?」 苛立ちに男の顔を睨みつける。そして俺はようやく男の言葉の意味に気付いた。男は、目を閉じていた。 「貴様、盲か」 「今頃気付いたか。それなら俺が誰なのか分からなくても仕方がないか。だが、自分よりも強いものがごまんといるこの魔界で、それは命取りになるぞ」 「まるで貴様が俺よりも強いと言っているようだな」 「そう聞こえないのだとしたら、本当にお前は何一つ見えていないと言うことだ」 語気を強めて言うと、男は眉間に皺を寄せた。男の体を目で見ても分かるほどの妖気が包む。まだ全力ではないだろう。しかしそれは、黒龍を纏った俺の妖気に匹敵する程のものだった。 コイツは、一体……。 そのツラには見覚えがあった。どこで見たのかは分からない。だが、記憶に引っ掛かっていると言うことは、僅かにしろ俺と何かしらの関わりがあるはずだ。 思い出せ。未だ妖気を放出し続けている男を見つめながら脳内を探る。瞬間、視界を赤い色が塞いだ。 記憶の中の出来事かと思った。が、目の前で揺れている赤い髪は、どう見ても実在しているものだった。 「くら……」 「黄泉。こんな所で何をしてる?」 蔵馬の一言に、男が沈める。 ヨミ。……黄泉、だと? 「別に。お前が遅かったのでな。単なる暇潰しだ。一体どこに行ってたんだ?」 「この大会の主催者と話をしていただけだ」 「……浦飯幽助か」 蔵馬の陰に隠れて男の表情は見ることが出来なかったが、その声色は俺に対してのものより幾分も優しく響いているような気がした。一方の蔵馬は、俺の聞いたことのない声をしていた。それは甘い響きではなく、反対の性質を含んではいたが。 「そいつがお前のアレだろう? 随分と幼いんだな。お前はいつからロリコン趣味になった」 「彼はまだ成長過程なんだ。お前のように老齢していないだけさ。……飛影」 突然蔵馬が俺の名を呼んだかと思うと、振り返った。俺と目を合わせ、それまで男に向けていた声からは想像できないほどに柔らかく微笑む。 「久しぶりだね、飛影。また強くなった?」 「蔵馬」 「蔵馬、行くぞ」 俺に向かって伸ばされた手が、男の声で止まる。それが癪で、蔵馬の手を強く引くと踵を上げた。 「……暫く会わないうちに、随分と大胆になったんだね。それともまさか。……淋しかったわけじゃないでしょう?」 「だとしたら、どうする?」 「そうだな……。大会、出場とりやめますか。オレも、あなたも」 「……それなら一人で勝手に辞退しろ」 「言うと思った。でもオレはオレで、あなたと戦うのを楽しみにしているんですよ、これでも」 何が可笑しいのか、蔵馬は言い終わるとクスクスと笑った。睨みつけた俺に手のひらを見せ、深呼吸を繰り返す。 「じゃあ、オレは行きます。一応、この大会が終わるまで宿を黄泉に借りているので」 今度こそ伸ばした手が俺の頬に触れ、温もりの残さない口付けをすると、蔵馬は男を振り返った。 「もういいのか?」 「飛影とは大会が終わればいつでも会える。何もお前が心配することじゃない」 聞こえてくる冷たい声。さっきまで俺が見ていた微笑が幻だったのではないかと思う程に。どっちが本当の蔵馬なのか、それを考え、蔵馬の手を掴んで引き戻したい衝動に駆られる。 けれど、蔵馬の背中越しに見えた男の殺意のこもった目に、俺は思いとどまった。溜息と共に、感じていた焦燥のようなものが引いていく。男に本気を出されれば、今の俺では敵わないことなど分かりきってはいるのだが。 「……あれが黄泉、か」 振り返りもせず遠ざかっていく蔵馬を追いかけるように歩き出した男に向かって呟くと、俺は何故か笑い出したい気分になった。 |
(2010/11/04) |
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