513.十人並み(不二タカ)
「不二はオレよりも他のやつと組んだ方がいいんじゃないのかな」
 英二たち黄金ペアとの打ち合いを終えてベンチに座ると、正面に立った彼が言った。気にせずに、はい、と笑顔で持っていたスポーツドリンクを差し出す。けれど、彼はそれを受け取らなかった。
「オレじゃなくてさ、もっと不二の力を上手く使ってくれる人と……」
「タカさんは、僕と組むのが嫌?」
「そうじゃないけど。でも、十人並みのオレと、天才の不二が組むのって、どう考えても可笑しいだろ?」
「そうかな」
 彼を見つめたまま、いつまでも受け取ってくれないスポーツドリンクをベンチに置く。開いた手の湿り気をタオルで拭くと、僕は大きな彼の手を握った。
「僕は。タカさん以外が僕と組むっていう方が、可笑しいと思うけど」
「どうして?」
「僕が一番安心してプレイできるのがタカさんだからさ。何も気にしなくても、タカさんならフォローしてくれるって、信じてるんだ」
 練習で豆が潰れてしまっている彼の手。寿司を握ることを犠牲にしてまで、頑張ってくれてるって証拠。
「ダブルスには何よりも信頼が大切なんだと、僕は思ってる。だから。僕のパートナーはタカさんじゃないと駄目なんだよ」
 彼の手を広げ、そこに今度こそスポーツドリンクを置く。
「15分休憩したら、またゲームが始まるんだから。ちゃんと水分補給しておかないと。……それとも、僕を心配させたい?」
 スポーツドリンクをしっかりと握らせ、今度は彼のタオルをその上に置く。ね、と笑って見せると、彼は、ありがとう、と頷いた。
(2010/06/23)
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