518.嘘から出た真(蔵飛)
「嘘から出た真って、こういうことをいうのかな」
 月光に映し出された寝顔を見つめながら、呟く。
 まさか本当に、このオレが。こんな子供相手に恋に落ちるなんて。
 ……極悪非道なんて看板は、下ろさないといけないのかもしれない。といっても、そんなもの、誰かが勝手につけたものだけど。

 闇の三大秘宝を巡って、飛影と幽助が戦った時、オレはその間に割って入った。あれは確かに幽助に借りを返すための行動だった。
 だが、彼は、コエンマはそう受け取らなかった。
 もしあの時、飛影が幽助を殺していれば。その罪は三大秘宝を盗んだそれよりも何倍も重いものになっていたはずだった。そのことを、コエンマは指摘した。
 オレの行動は、飛影のために在ったものなのだろうと。
 それは余りにも馬鹿げた考えだった。オレに仲間意識はない。だが、オレはそれを認めた。……コエンマの、オレへの想いを断ち切るために。
 コエンマとは、オレが妖狐の頃からの付き合いだった。そして、あの頃から、コエンマはオレに想いを。
 霊界の者と妖怪では、人間と妖怪よりもありえない話だ。ましてや、相手は閻魔大王の子息。そうじゃなかったとしても、千年以上生きているオレには、コエンマは子供過ぎた。
 そう、オレは子供が好きじゃなかったはずなんだ。

「だが実際は、今まで出会ってきた子供が、オレの好みじゃなかっただけなんだろう」
 飛影は、まだ百年も生きていない。オレの十分の一も、だ。
 そんな子供に。オレは、本気で……。
「蔵馬?」
「……おはよう、飛影」
 寝惚け眼の飛影に微笑い、閉じられている額の目に唇を落とす。
 再び微笑みかけようとその目を覗きこむと、頬を両手で押さえられ、唇が重なった。
 拙い舌づかい。それでも、何故か飛影のキスはオレを欲情させる。
「またしたいの?」
「またじゃない。今はまだ、夜だ」
「……なるほど。続きってことか」
 赤く染まった頬に思わず笑いを零したオレに、飛影が文句を言いたげに睨みつけてくる。けれど、オレはその視線さえも可愛いと感じてしまうから。
 また笑いが漏れてしまう前にと、自分の口を飛影の唇で塞いだ。
(2010/08/20)
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