539.優先順位(はるみち)
「はるか?」
「ああ。うん」
「まだ何も言ってなくてよ」
「そう」
「ねぇ。どうしたの? 最近、歯切れが悪いわ」
「……随分と、重くなったなと思ってさ」
「ほたると一緒に毎日おやつを食べているからよ。暫く、甘いものは控えたら?」
「そういう意味じゃないさ」
「じゃあどういう意味なの?」
「…………」
「はるか?」
「あの頃の僕は、身軽だった。空も飛べると思うくらいに」
「私たちが重荷なら。別にこの関係を」
「けど。それはただ、空っぽだったってだけだった。君に出会って、君が僕の中に入ってきて。僕の体は少し重くなったけど、それは悪くないことだった」
「だった?」
「……それから、あの子たちと出会って。せつなと、再会して。ほたるとこうして家族になって」
「ほんと。随分と重くなったわね」
「なぁ、みちる。どうして僕は。君だけを想っていられなくなったんだろう?」
「えっ?」
「使命だって。初めは、君といる世界を守るためだったのに。今は。僕は、地球を、あの子たちを救うために、君を道連れにした。……時々、嫌になるよ。僕は、君だけを想って暮らしたいのに」
「……優しいのね、はるかって」
「そう思う君のほうが、優しいと思うけど?」
「私は、自分のことしか考えていないもの」
「僕だってそうさ。だから、今」
「けれど、割り切れてはいないんでしょう? 心のどこかで引っ掛かってる」
「…………」
「ありがとう、はるか。大丈夫よ。貴女が今、こうして悩んでくれているという事実だけで。私は充分に倖せだわ」
「普段はやきもち妬きのくせに?」
「それなら、私は今ここで駄々をこねるべきなのかしら?」
「……赦してくれとは言わない。愛想をつかれても仕方がないと想ってる」
「私は。はるかが、それでも私のことを、自分のことだけを考えているような人だったら、きっと好きにはなっていなかったわ。その優しさは、貴女の魅力の一つよ」
「みちる……」
「でもね、はるか。これだけは覚えていて」
「何?」
「その重さは、私に分けてくれても構わないということ。ただ、私の重さだけは、私と分け合うことは出来ないけれど」
「君に関しては、他の誰とも分かち合うつもりはないさ。君を背負ったくらいで動けなくなるほど、僕は柔じゃない」
「……そう」
「みちる?」
「ほんと、私って自分のことばかりね」
「何?」
「私の重さで、貴女の足が動かなくなればいいなんて。一瞬、思ってしまったんだもの」
「……みちる、僕は」
「ねぇ、はるか。お茶にしましょう? 大丈夫よ。毒なんて入れたりしないから」
「構わないさ」
「えっ?」
「中、入ろうか。僕の戯言に付き合って、随分と冷えただろうし――」
(2010/07/02)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送