541.生き様(蔵飛)
「これがお前の生き様か?」
 医務室のベッドに横たわるオレを見下ろすと、彼は言った。その口調に棘を感じたのは気のせいではないだろう。ただ、怒りの矛先が多過ぎて、どれが一番強い想いなのか知ることは出来ないけれど。
「もうすぐ試合でしょう。いいんですか、こんな所にいて」
「準備体操でもするか?」
「……分かりました。オレの負けです」
 溜息をつき微笑ってみせる。けれど相変わらず彼はオレを睨みつけたまま。仕方ないな。痛む腹部に力を入れ、何とか上体を起こす。痛みに僅かに声を漏らすと、彼の眉がほんの少しだけ動いた。意地っ張りだな。笑いたいけど、痛みで上手く表情がつくれない。別に、ここで笑ってみたところで余計に彼の顔を曇らせるだけだろう。
「手を」
「甘ったれるな。俺はもう行く」
「だから。手を」
 彼の腕を掴み、手繰るようにしてベッドから降りる。唖然としている彼に、今度こそ笑ってみたけれど、それも束の間眩暈に襲われた。受け止める彼の腕に甘え、そのまま唇を重ねる。
「き、さま」
「頑張って。オレは、会場のスクリーンで見守ってますから」
「ふん。意地を張って負けるような奴に見守られても、縁起が悪いだけだ」
 オレから目をそらし、ベッドの脇に立掛けていた刀に手を伸ばす。けれど、彼はオレの手を振り解こうとはしなかった。
 さっきのキスで機嫌を直したのか、それとも、もしかしたら初めから……。
「勝って。オレを黄泉から解放してください」
「ふざけるな。捕らわれていない奴をどうやって解放できる? 嫌ならさっさとフリをやめればいいだろう」
 オレを睨みつけながらも、口元だけは緩めている彼に、それもそうですね、と頷くとオレ達はゆっくりと医務室を後にした。
(2010/12/05)
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