560.同じ穴のムジナ(夜天&みちる)
「アンタと星野は似てるね」
 挨拶代わりとでもいうようにいつもの口喧嘩を始めているはるかたちを見ていると、突然声をかけられた。視線を移すと、彼の目は私ではなくあの二人を見ていた。それでも彼の小さな口から発せられた言葉は、確かに私に向けられたものだった。
「はるかと、の間違いじゃなくて? 私とあの子じゃ違いすぎるわ」
「表面的な性格はアイツら似てるかもしれないけど。そうじゃなくて。もっと深いとこ。似てるよ、アンタたち」
 横目で私を見、口元を歪めて笑う。そこに悪意があることは分かったけれど、どうしても問わずにはいられなかった。彼に、私の何が見えているのか。
「どうしてそう思うのかしら」
「だってアンタ、プリンセスだとかこの星だとかのためじゃなく、アイツのために戦ってるんでしょ。たった一人の、大切なヒトのために。星野も同じ。あんなウルサイののどこがいーんだか知らないけど」
 驚きに何もいえないでいる私に、少しだけ得意げな表情をする。けれど、それと、と続けると彼の目は哀しげなものになった。私から、はるかたちへと視線を戻す。
「永遠の、片想いってとこも似てる」
「……あら。私とはるかは」
「あのウルサイのも、アイツも、前世からの運命だとか使命だとかに囚われてる。それが最優先事項。アンタは確かにアイツの恋人かもしれないけど、それでも使命には勝てないよ。分かってるんでしょ、自分で」
 驚いた。本当に。火球皇女と仲間以外の他人に興味なんてないと思っていたのに。彼の言葉は、強ち間違ってはいない。
「へぇ。アンタでもそんな顔するんだ。もっとずっと、いつもすましてるもんだと思ってたけど」
 首を傾げ、無邪気そうに笑う。悪意は感じられるけれど、それは本心から愉しんでいるように見えた。その表情に、似ているというのなら、と思う。
「私は、あなたのほうが、より私に近いと思っているわ」
「え?」
「自分の大切なもの以外はどうでもいい。そうでしょう? 私たちは、あの二人のような戦士が持つべき優しさを持ち合わせてはいない。目的のためなら平気で他人を傷つけられる。あなたの場合、退屈しのぎにのために、というのも含まれるみたいだけれど」
 それとも単純に羨ましいのかしら。私とはるかの関係が。優しく言って、彼が向けたものと同種の笑みをつくる。私の言葉に彼は目を見開いたけれど、次の瞬間には細めていた。きつく、威嚇でもするかのように私を睨みつける。
「悪いけど。ボクには同性を好きになるような趣味はないから」
「そう。それなら私と同じね」
「は?」
「私だってそんな趣味はないわ。ただはるかが女性だっただけ。それだけのことよ」
 終わりそうにない口喧嘩。とても気が合うのね、なんて思いながら愛しい人の名を呼ぶ。思い出したかのようにこちらを見た彼女は、私の隣が空白ではないことに眉をひそめてくれた。早足で、私の元へと帰ってくる。
「お望みどおり、お返しするわ」
 本当はこうして欲しかったんでしょう。いつの間にか俯いてしまった彼に囁く。弾かれたように顔を上げた彼に同情にも似た笑みを作ると、怒声が聞こえてくる前に私ははるかの腕に自分のそれを絡めた。
(2011/03/21)
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