５６６．招かれざる客（蔵＆ムク）
「何しに来た」 「……随分と、嫌そうな顔をするんですね」 「ここは人間の来るところではない」 「妖狐の姿になれば問題はないということですか？」 「それならそれで、侵入者を排除するだけだ」 「人間なら排除されないと」 「人間ごときが百足に入り込んだところで、傷一つつけられないからな」 「そんなことはありませんよ」 「お前がその肉体で発揮できるほどの妖力では無理だ」 「何も、傷は外側だけじゃない」 「……シマネキソウでも植えるか？　無駄だな。根を晴らすことすら出来ないだろう」 「それも違います」 「だったら何だ」 「心、ですよ。こんなにもちっぽけな人間にだって、力なんか使わずとも、心になら傷を負わせることが出来る」 「生憎、俺の部下達はそんな柔ではない」 「そうかな。飛影なんか、ある点ではとても脆いですよ。それに、あなたも。……その脆さを隠すために、外側を強化したんでしょう？」 「……お前。死にたいか？」 「まさか。オレはただ事実を述べただけです」 「それが自殺行為だと言ってるんだ」 「正直者は嫌いですか？」 「……お前は。昔から他人のことはそのまま言うくせに、自分のことは何一つ正直に話さない。そういう奴は正直者とは言わん」 「つまり、オレは嫌われてるということですか」 「好かれていると思ったのか？」 「ええ。ここへの進入を許されたので」 「許したのは飛影だ。俺じゃない」 「なるほど。じゃあオレは、あなたに見つからないよう、真っ直ぐ飛影の元へ向かわなければ行けなかったわけだ」 「そういうことだ。余計なことをしたな」 「本当に。でも、オレにとっては余計なことではなかったかな」 「そんなに死にたかったのか？」 「まさか。……トーナメントの時は、あなたと話を出来ませんでしたから」 「当たり前だ。本来、お前のような奴が話しかけてきていい相手ではない」 「今も昔も、どうしてもあなたとは対等な立場にはなれないんですね」 「……いい加減、飛影の元へ行ったらどうだ？　寄り道をしていて嫌われても、俺は責任は取らんぞ」 「ああ。見逃してくれるんですね」 「殺されたいのなら、殺してやっても構わんが」 「どうせ殺されるのなら、相手は飛影がいいですから」 「そうか。だったら、さっさと行って殺されてこい」 「……そうしますよ。では」
(2010/07/30)