570.頭脳明晰(はるみち)
「……君には、解けない問題なんてないんだろうな」
 はい、と、僕が何分も詰まっていた問題を容易く解いたその指先に、呟く。なあに、とすぐ隣で声がして、僕は顔を上げた。
「みちるはほんと、頭いいよな」
「貴女が勉強をやらなすぎるのよ。はるかだってきっと、やれば出来るわ」
 だからほら。次の問題を指差し、微笑う。しょうがないな。伸びをして、問題文に取り掛かる。
 暫く無言でそれを読んでいると、小さな溜息が聞こえてきた。分からない問題でもあるのかな。そう思い再び顔を上げると、僕を見つめている彼女と目が合った。
「何?」
「苦悩してる貴女も、素敵ね」
「……サドか、君は」
「それもいいかもしれないわ」
 冗談とも本気ともつかない声で言い、目を細めて笑う。まったく。苦笑した僕に、彼女はまた溜息を吐いた。
「まだまだ、勉強が必要みたいね」
「えっ?」
「私にも、解けない問題があるということよ」
 見つめる僕にそう言って悪戯っぽく微笑むと、さて、と息を吐いて目の前の問題に取り掛かってしまった。するすると、問題文をちゃんと読んでいるのかと思う程に解答欄を埋めていく。
 一方の僕はと言うと、彼女の言葉が気になって、それまで以上に集中出来なくなっていた。
(2010/07/17)
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