574.ロシアンルーレット(不二蔵)
「ロシアンルーレットだよ」
 本当の君は何処にいる? そんな質問をしたオレに、彼は心底楽しそうに言った。
 オレの出したもので汚れた手を、猫みたいに丁寧に舐め上げて。綺麗にしてから、再び手を伸ばしてくる。
「本当の僕を手にした人は、死んじゃうんだ」
 オレの腕の包帯をとり、軽くなったそれを自分の首に絡めさせる。それから、舌も。
 ほんの少し苦味のあるキス。けどそれも、時間が経つごとに分からなくなっていく。
「……不二くんは、こんなこと、あの手塚くんや跡部くんにもしてるんやろ?」
「あと、切原と、大和くんにも、かな」
「大和くん?」
「そう。高校生の。……僕が一年だった頃の、部長だよ」
 高校生にまで……。
 合宿で一緒になっただけでもこれなのだから、恐らくもっと多くの人がその引き金に指をかけているのかもしれない。
「本物を引いた人はいてへんの?」
 本当の彼を、見たことのある人は。
「いるよ。だけど、死んじゃった」
「えっ?」
「だって、ロシアンルーレットって、そういうものでしょう?」
 当たりが生なのか、それとも死なのか。この場合は、どちらなのだろう。
 本当の不二クンを見てみたい。だけど、この関係は続けたい。ロシアンルーレットというルールの中で、それを両立させるのは無理なのかもしれない。
「白石は、死にたいの?」
 指先を動かし、再び熱を持ち始めたオレのそこを撫でながら、甘く囁く。
 誰も死にたくはない。この関係を終わりになんてさせない。けれど。首を横に振ることが、どうしても出来ない。
「じゃあ、本当の僕を見たいんだ?」
 その質問にも、頷けない。
 いつまでも黙っているオレに焦れたのか、彼の手に力が込められる。そのことに呻いたはずが、オレの声は不二の唇に押さえ込まれた。
 唾液が気管に入り、激しく咽かえる。
「……意気地なし」
 呼吸を整えるよう深呼吸をしたオレに、彼は何故か淋しそうに呟いたけれど。それについて問いかけるよりも先に、彼の腰が強引に進められた。その瞬間、何処かでカチッと虚しい引き金の音が聞こえた気がした。
(2010/08/31)
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