５７５．不明瞭な返事(不二塚)
「曖昧な言葉はもうやめてくれ。イエスかノーか。それだけだ。簡単だろう？」 「…………」 「不二。何度も言うが、オレはお前が好きだ。だから。オレと。付き合って欲しい」 「…………」 「お前がノーというのなら、オレはこれ以上何も言わない」 「…………」 「不二？」 「…………」 「おい、聞いているのか？」 「……聞いてるよ」 「だったら答えを――」 「曖昧な言葉は聞きたくないんだよね？」 「……そうか。だから」 「聞きたくないのなら、言わない。それだけだよ」 「それなら。オレはどうしたらいい？」 「何？」 「お前がはっきりとした答えをくれないと。オレは、進むことも諦めることも出来ない」 「……僕が諦めろって言ったら、諦めるの？　その程度の想いだってこと？」 「そうじゃない。そうではないが……。無理なら、諦めるしか、ないだろう？」 「それは違うよ、手塚。僕は返事をすることは出来るけど。それを受けて、答えを出すのは、君自身だ」 「可能性の、無いことに賭けろというのか？」 「手塚は……。そうか。君は強かったから。勝ちの見えない試合、なんて、その選択肢自体なかったんだね」 「テニスと一緒にするな」 「同じだよ。勝ちの見えない試合。君ならきっとそれでも挑む。テニスプレイヤーとしての自分を信じて。例え負けても誇れるような試合をきっとする。……君は、自分が信じられない？」 「……信じ、られると思うか？　恋愛なんて、したこと、ないのに」 「そっか……」 「不二？」 「実を言うと、僕もそうなんだ」 「……何？」 「こんな風に、人を好きになったことが無くて。だから、なかなか踏み出せなくて。……僕は、君と違って。勝ち目の無い試合なんてしないから」 「不二。それは」 「だから、君に答えを委ねたんだけど。それじゃ、ずるいよね」 「頼む。もっと、分かりやすく言ってくれないか？　出来ることなら、一言で」 「……好きだよ」 「本当、か？」 「一言でっていうから、一言にしたのに。……信じられない？」 「い、いや。その」 「じゃあ、行動で。信じさせてあげるよ」 「え――」
(2010/09/14)