579.I'll be back(星はる)
 突然の呼び出し。暇だったから指定された場所に行ってみると、妙に真剣な表情でそいつは言った。
「絶対に戻ってくる」
 好きにしろ。正直、そう思った。第一、そんな決意を何故僕に言うのかが分からない。
「相手、間違えてるぜ?」
 笑いながら言ってみたが、そいつは表情を変えなかった。
「間違えてない。オレは他の誰でもない、天王はるかに言ってるんだ」
 揺らぐことのない眼差し。いつもなら、こうして見つめ合っていると先に目をそらすのは向こうなのに、今日は僕の方が先に目をそらしてしまった。
「一応、言葉としては聞いておいてやる」
 ポケットの中のキーを指先に引っ掛け、放り投げる。高く上がったそれを受け取ろうとしたが、僕の手は空振りに終わった。
「真面目に聴けよ」
「聞いてるさ。ちゃんと。聞いているだけだが」
 キーを奪い返し、背を向ける。もうこれ以上、話すことなどないだろう。
 戻ってくる。その言葉はしっかりと僕の脳に刻んだ。だが、それだけだ。奴は待てとは言わなかったし、言われたとしても待つ気はない。
 大体、戻ってくると分かっているのなら、待つ必要だってない。そうだろう?
「おい、天王。天王!」
「……なんだ。別れのキスでもして欲しいのか?」
 五月蝿く呼びかける奴に、仕方がなく振り返る。奴はまだ、真っ直ぐに僕を見ていて。
 仕方がないな。内心舌打ちをすると、僕はいつもの笑みを浮かべたままで、星野の元に歩み寄った。
(2010/08/28)
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