582.カルテット(外部ファミリー)
 最近、チームワークとやらが上がってきている気がする。
 それまではずっと、みちると二人で戦ってきたし、これからもそうするつもりだったけれど。家族ごっこを始めてから、四人というのも悪くない、と。時々思う。
「はるか? どうかして?」
「いや。思ったより早くケリがついたから。拍子抜け」
「気を抜くにはまだ早くてよ。あなたには、私たちを乗せて帰るという使命が残ってるんですから」
「そうだった。しっかりと、運転手を務めさせてもらうよ」
 微笑むみちるに微笑み返し、その手をとって、せつなとほたるが待っている僕の車へと向かう。
 使命、か。
 一人で乗っているときよりも安全運転を心がけ、アクセルを踏み込む。髪をさらう生温い夜の風は、この街の片隅で起こった惨劇を知らないようだ。
 僕たちがカルテットなら。その指揮をとっているのは恐らく、使命なんて名の奴なのだろう。だとしたら。
 コンダクターを失った演奏は、きっと目も当てられないものになる。 「大丈夫よはるか。私は。何が遭っても、何も無くても。貴女の傍にいるわ」
 囁くような声と共に、彼女の手がギアを握る僕の手に重なる。横目で見た彼女は、少しだけ不安そうに微笑んでいて、思わずバックミラーを確認する。せつなは、眠りの入り口にいるほたるに夢中で、僕たちには気づいていないようだった。
「そうだな」
 手の向きをかえ、指先を絡める。浮かべた微笑みは、どうしても口元だけに留まってしまう。
 結局、残るのはみちるだけ、か。それは僕がずっと望んできたことであり、淋しさを感じるのは可笑しな話なのかもしれない。だけど。
 バックミラーで、二人の姿を確認する。眠りに就いたほたるの肩を抱きながら、いつの間にかせつなも眠ってしまったようだった。安らかな二人の表情を、青白い月が照らし出している。
 なぁ、みちる。こんなことを僕が想っていると知ったら、君は怒るかもしれないけれど。出来ることなら、もう少しだけ。コンダクターがいなくても、四人の呼吸が揃うようになるまでは。このまま、四人で……。
 それくらい、構わないだろう?
「……だって。僕たちはこの先、何十年も共にいるんだから」
「えっ?」
「楽しみは、もう少し先延ばしにしたって、逃げやしないさ」
 信号に捉まった車。繋いだ手に力を込め、真意を探ろうとするみちるの目を見つめ返すと、小さな罪悪感を打ち消すように、そっと口付けを交わした。
(2011/03/15)
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