583.赤と黒(蔵飛)
 絵の具だと、赤と黒を混ぜ合わせれば、どんなに少なくとも、必ず黒が勝つ。それなのに、どうして。
「っは」
 体内で蠢く熱。飲み込まれていく感覚。それを飲み込んでいるのは俺のはずなのに。
 垂れ下がってくる赤い髪が、まるで俺を染め上げているような錯覚に陥る。背に回していた腕を持ち上げてみれば、そこには幾つもの赤い色。
 漏れていく吐息すら、その熱で赤く染まっているように思えてくる。
 侵食、されていく。黒い色など、初めから持ち合わせなどいないかのように。
「……飛影」
 囁かれる声に、心までもが染め上げられる。
 こんなはずではなかった。どんな形であれ、体を交えれば。こいつは俺のものになると思っていた。それなのに。
「蔵馬……」
 荒い呼吸の隙間で何とかその名を呼び返す。伸ばした手に指先を絡めた蔵馬は、満足げに笑うと、俺から黒色を抉り出すように深く体内を突き上げた。
(2010/08/28)
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