586.そうか、わかったぞ(はるみち)
 街中に出ると、みちるは必要以上に僕の傍に寄り添う。手を繋ぐわけじゃない。でも、時折肩が触れ合うほどの距離で歩く。
 まさか。人波に飲まれてはぐれてしまうことを不安に思ってるわけじゃないだろう。
「みちる。少し、近くないか?」
「駄目?」
「歩き辛くないか?」
「じゃあ、こうすれば歩きにくくても我慢できる?」
 みちるの手が、僕の腕と脇の間を通る。僕は思わずポケットから手を出そうとしたけれど、それはみちるに止められた。
 手を繋いだ方が、もう少し歩きやすくなると思うのだけれど。目的は僕に触れることじゃなく、寄り添うことにあるらしい。
 それにしたって。くっつくならもっと、人目の少ないところですればいいのに。ただでさえみちるは、人の視線を引きつけるのだから。
「視線、痛くないか?」
「似合いに見えるのなら、それで構わないわ」
 似合い、ね。みちるの言葉を頭の中で反芻し、横目でショーウィンドに映る二人の姿を確認する。確かに僕たちは似合いのカップルに見えなくもない。身長差もそれなりだし。
 ……身長差?
 ああ、そうか。
「みちる、今日ヒール履いてるんだっけ?」
「……ええ」
「出かけるとき、僕にブーツすすめたよな?」
「……ええ」
「ヒール、何センチ?」
「……あまりいじめないで欲しいわ」
 顔を赤らめて俯くみちるに、悪かったよ、と、僕は微笑った。
 こういうところで、みちるも女の子なんだなと思ってしまう。いや、普段から女であることは感じているのだけれど。
「可愛いんだな、みちるって」
「何よ」
「そういう一面も、僕は好きだな」
 まだ赤い顔で上目遣いに見つめるみちるが、本当に少女のようで。僕は余裕を持って微笑む裏で、内心抱きしめたくなる衝動を抑えることに必死だった。
(2011/04/08)
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