587.残照(不二塚)
 太陽が沈んでいく。星よりも明るいビルの光。ガラスに映った自分の顔を見つめ続けている目に気付き、僕は振り返った。
「夜になっちゃったね。君はもう、帰らなくちゃ」
「まだ陽は残ってるだろう?」
 彼が顎をしゃくって窓の向こうを示す。振り返ると、ビルの合間に辛うじて赤い色が見えた。のしかかる群青色に追いやられ、それも後数分もせずになくなるだろう。
「太陽が沈んだら、もう夜だよ」
 白夜だって、明るくても夜だし。微笑みをつくり、テーブルに広げられた彼の参考書を閉じる。その手を、強く掴まれた。
「自分で片付ける?」
「ああ。後でな」
 後で? 聞き返すよりも先に掴んだ手を引かれ、中腰だった僕は彼の腕の中へと崩れた。二人同時に、正反対の意味を持つ溜息を吐く。
「手塚。何度目?」
 最近少し我侭だよ。ゆっくりと体を倒した彼に覆いかぶさり、口付けを交わしながら苦笑する。
「分かっていてオレを呼んだのだと思っていたのだが」
「空、暗くなってるよ」
「オレは自分の目で見たものしか信じないのでな」
 彼の手が僕の首に絡まる。その重さで起き上がることが出来ない僕は、仕方がなく重力に従った。ブラインド開いたままだなと、そんなことが頭の中を一瞬過ぎっては消えた。
(2010/11/01)
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