592.夕涼み(蔵雪)
「最近、よくいらっしゃいますね」
「ここは涼しいからな」
「ですが、蔵馬さんの部屋にはクーラーというものがあるんじゃないんですか?」
「あるにはあるが。あまり、人工的なものは好きではなくてな。それに、ここでなら、妖狐(こ)の姿でいることも出来る」
「けど。妖狐になるのは、命を削ることだって」
「……誰から聞いた?」
「コエンマさんが、言ってました」
「あいつか」
「蔵馬さん。もし……」 「来い」
「えっ?」
「あとどのくらいこの姿になれるか分からないからな。数少ないチャンスだ。逃す手はないだろう?」
「えっと。その。私……」
「そのかわり、オレがこの姿になれなくなった時が来たとしても」
「大丈夫です。私、姿が何であっても、蔵馬さんのこと、大好きですから」
「だが、出来ることならこの姿の方がいいんだろう?」
「……南野さんは、とても優しいですから」
「なるほど」
「蔵馬さん?」
「やはりここは涼しいな」
「えっ?」
「どうせ熱くなるのだとしても、だ」
「ちょっと、蔵馬さん、こんなところで」
「黙れ」
「…………」
「そんな顔をするな。お前が望んだことだろう?」
「……はい」
(201/07/28)
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