602.〜が貧しい(不二塚)
「手塚って、表情乏しいよね」
 ベッドに無造作に広げられた写真を眺めながら、不二は楽しげに言った。感情は豊かなのにさ。
 オレの目から見ても同じに見えるその顔でも、不二には感情が読み取れるらしい。
「お前の方が、表情乏しいだろう。感情も」
 人の写真を眺めて、いつまでも微笑っている不二に苛立ち、少し意地の悪いことを言ってみる。
 恐らくは菊丸が撮ったのだろうか不二の姿。いつもの笑みを浮かべたそこからは、何の感情も読み取れない。
「君に対する感情だけは、豊かなつもりだけど?」
「種類はそう多くないだろう」
「好きっていう感情以外、何か必要?」
 いつもの笑みでオレから写真を奪う。その手を掴むと、強引に引き寄せた。唇を重ね合わせる。
「ほんと、感情豊かだよね、手塚って」
 不二の目がゆっくりと開かれる。吸い込まれるようなブルー。読み取れる感情は、ただ、一つ。本当に、コイツは……。
「何で照れてるの?」
「うるさい」
「面白いな、手塚って」
 クスクスと声に出して笑うと、不二は繋がったままのオレの手を強く引いた。
(2011/02/07)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送