607.君は何を考えているのかね(不二榊)
「君は……」
 言いかけて、その続きを飲み込んだ。問いかけたところで、答えなど返ってこないことは分かっている。
 それに――。
「榊さん?」
 手を伸ばし、彼の頬に触れる。私の動きに再び笑みを見せた彼は、慣れた仕草で首に腕を絡ませてきた。
 口付けを交わし、視線を繋ぐ。
 底の知れない瞳。総てを掌握したいという欲求に駆られる。まるで私のために創られたかのような性質。永遠に手に入らないもの。だからこそ、永遠に求め続けられる。
「そんな顔しなくても。急かさなくても、ちゃんとあげますから。……榊さんが、本当に欲しがっているもの以外は、総て」
「……君は」
 本当に。何を考えているのか分からないな。
「怖いですか? 自分の思い通りにならない存在が」
「あまり大人をからかうな」
 体を這う指先のせいで零れてしまいそうになる熱い吐息を堪えながら、余裕の笑みとやらをつくってみせる。
 ――それに。簡単に答えが知れてしまうのも、つまらない。だから私は、彼を縛り付けずにいるのだと。
 強がりとしか聞こえない自分の言葉に笑うと、それを何かと勘違いした彼は鋭い目付きで私を射抜き、そして。
(2010/09/13)
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