608.七つの・・・を持つ男(蔵飛)
「お前は、一体幾つの顔を持ってるんだ?」
 見つめ合うオレの頬をつねりながら、飛影は言った。痛いですよ。その手に自分の手を重ねあわせ、口付けを交わす。
「そうですね。オレはオレだと思っているんだけど。あなたから言わせれば、南野秀一と妖狐蔵馬の二つ、かな」
「嘘だな」
「え?」
「南野秀一にも、人間としての顔と妖怪としての顔があるだろう」
 言われて、飛影の不機嫌の理由が分かった気がした。今日、久々に両親の家へと行った。そこでのオレの様子を、盗み見していたのだろう。
「そんな風に分類されたら。総てを知るのはきっと無理だと思いますよ。相手に寄って、オレの顔は変わりますから」
「そうだな。黄泉とやらの前でも随分と変わるようだ」
 この人は。本当に、覗き趣味だな。半分呆れながらも、自分の知らないオレの一面を見て内心腹を立てている飛影を想像して、思わず笑った。
「何が可笑しい?」
「心配しないで」
 彼の顎を掴み、深く口づける。手に多少力を入れなければと思っていたけれど、飛影は自らオレの舌を迎えた。吐息と、微かな水音が部屋を充たしていく。
「どんな顔を持っていたとしても。オレの、あなたへの想いはホンモノだから」
 ただ、飛影に見せている顔が本当のオレだとは、言い切れないけれど。けれどそれは決して飛影に偽っているからというわけではなく。オレの中では、やっぱりどれもオレだから。
「ごめんね」
 不満げにオレを見上げる飛影に、呟く。そのまま、暫く黙って見つめ合っていたけれど。
「まぁ、どうでもいいがな」
 吐き出すように言うと、飛影は乱暴にオレの髪を掴んで、獣であるオレの顔を引き出すように深く濃密な口付けをしてきた。
(2011/03/20)
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