639.本日の営業は終了いたしました(不二榊)
「榊さん……」
 艶のある声で私を呼ぶと、彼は膝の上に乗ってきた。私の肩に両腕を置き、唇を重ねてくる。
 甘く、思考が麻痺するような口付け。何処で学んだのか知れないそれを堪能していると、ソファの片隅で味気ない電子音がした。
「少し、いいか?」
 手を伸ばし、相手を確かめる。そこに出ていた名前に、私は小さく溜息を吐くと通話ボタンを押した。同じ教員なら無視はできるが、生徒相手では出ないわけにも行かない。
「こんな時間にど――」
「本日の営業は、終了いたしました」 
 軽い動作で私の手から携帯を奪い取ると、彼は冷たい声で言い放った。携帯電話を畳み、ソファの隅へと放る。
「不二」
「今は勤務時間外ですよ、榊さん」
 咎めようと睨みつけた私に、彼は意地悪く言うと、口の端を釣り上げた。その顔が徐々に近づき、再び唇が触れる。
「どうせ先生をするのなら、今は、僕の先生になってください」
「……何を教えて欲しいんだ?」
「榊さんを気持ちよくする方法。どこをどうしたら、あなたが乱れてくれるのか」
 ねぇ、先生。囁く彼の声が、理性を崩していく。いいだろう。生徒に対する口調で答えると、彼は嬉しそうに頷いた。
「一度しか教えないから、しっかりと、その頭に叩き込みなさい」
(2010/07/03)
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