653.世界旅行(はるみち)
「夢はワールドツアーだって?」
「えっ?」
「雑誌インタビュー。読んだよ」
「そう」
「本気?」
「そうね。もうセーラー戦士としての力を必要としないのなら。ヴァイオリンで世界を回ってみたいわ」
「……大道芸みたいだな」
「あら。それでも構わなくてよ。私はステージさえあればそれで。……ただ、野外だと陽射しがあるから。安物のヴァイオリンしか使えないわね」
「はぁ」
「どうして溜息をつくの?」
「君がワールドツアーに行ってる間、僕はどうしたらいいんだよ」
「私の夢、応援してくれないの?」
「応援したいさ。応援したいけど。……知らない? 僕って結構、我慢苦手なんだ」
「知っているわ」
「君が海外遠征で一週間いないだけでも耐え切れないのに。世界一周なんて……。僕を発狂させたいのか?」
「……そんなはるかも観てみたいわね」
「みちる」
「冗談よ。そんなことになったら、貴女の世話をするせつなやほたるが可哀相だわ」
「……あのなぁ」
「ねぇ。どうして一緒にっていう発想がないのかしら」
「え?」
「2人で。一緒に世界旅行。……していただけますか?」
「僕は、弾かないぜ?」
「分かっているわ」
「……だったら。行っても構わないけど」
「あまり乗り気じゃないみたいね」
「だって、2人きりじゃないだろ? スタッフや共演者も一緒なわけだし」
「そうね。でも、部屋は」
「それに。君がリハーサルをしている間、僕はどうしてたらいいのかな?」
「現地の女の子をナンパでもしていたら?」
「……拗ねてきただろ?」
「別に拗ねてなんか」
「僕はさ、だから。どうせなら、そういうの無しで君と世界旅行をしたいって行ってるんだよ。新婚旅行って、そういうもんだろ?」
「……はるか。いま、なんて?」
「え? あ。いや。まぁ、うん。えーっと。……何だよ。笑うなよ」
「ごめんなさい。私はてっきり、あの時の旅行がそうなのかと思っていたわ」
「あの時? ……ああ。僕が旅行先のホテルで風邪を引いたときか」
「そう。貴女がホテルのメイドをナンパしていたとき」
「あれは……。熱で、頭がおかしくなってたんだ。きっと」
「……そういうことにしておくわ」
「兎に角、さ。今度こそ、ゆっくりと、君と旅行に行きたいんだ。駄目、かな?」
「それは、留守番2人に聞いてみないと何とも言えないわね」
「……ちぇ」
(2010/08/08)
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