657.春の宵(はるみち)
「大分陽がのびてきたな」
「こうして夏になってゆくのね。……ふふっ」
「何?」
「あの頃は陽がのびて行くのがとても楽しみだったわ」
「どうして?」
「貴女、変なところで真面目なんだもの。日が暮れたら調査もそこそこに帰りましょうだなんて」
「……そう、だったっけ?」
「敵が現れるとはっきりしている時は別だったけれど、何となく二人でいた時はいつもそうだったわ。私の帰り道を心配してくれてるのは分かってたけれど。それでも、いつも貴女から別れを切り出されて。淋しくもあったのよ?」
「けど、さ。それは今でも同じだろ?」
「そうね。今は、暗くなったらほたるが帰ってくるから」
「言っとくけど」
「分かってるわ。ほたるのためだけじゃないってことくらい。でも」
「えっと。それで、今は?」
「えっ?」
「あの頃はってことは、陽がのびるの、今はそんなに楽しみじゃないんだろ?」
「残念だとは思っていないわよ」
「けど、楽しみだというわけじゃない」
「だって、早く帰っても、その先に貴女がいるって分かってるから。陽がのびれば、それだけ恋人でいられる時間が増えるけれど。最近は、家族でいるのも悪くないと思っているの」
「なるほど」
「……でも」
「ん?」
「今日はもう少し……。ねぇ、夜桜でも見てから帰らない?」
(2011/04/26)
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